宝塚市立病院について 一般質問
9月28日、宝塚市議会本会議場において、表題の一般質問を行いました。以下はその一次質問の全文です。原稿用紙にして18枚程度あります。
(1)無所属の会 田中大志朗でございます。1次質問をはじめさせていただきます。本日私は、去る6月27日の議員総会で、病院当局より発表された宝塚市立病院が目指す病院像について質問をさせていただきます。そもそもこのタイミングでこのような文書が発表された意味・目的が問題となるところでありますが、先の9月1日に開催された文教生活常任委員会で当局より、「この文書はあくまでも今後の市立病院改革のタタキ台である。しかしこのタタキ台をベースとして、経営強化プランを作成するつもりである」との説明がありました。経営強化プランとは、総務省が示すところの公立病院経営強化ガイドラインに従って、全国の公立病院が令和4年または5年中に作成することが義務づけられた経営計画であり、それが一旦作成されれば、市立病院の改革は、それに従って進められることになると思います。従いまして、市立病院が目指す病院像は、まさしくタタキ台として徹底的に議論されるべきであり、「市立病院改革について意見を述べるのは、まさに今しかない」という思いから、未熟ながら、できるだけの勉強をした上で本日の質問に臨むものでございます。しかしながら、本日の質問だけでなく、市立病院が目指す病院像が、経営強化プランとしてその内容が固まるまでには、まだまだ議会サイドから意見を述べることが必要と考えます。当局としては、どのようなスケジュールを考えておられるのでしょうか。ご説明を求めます。
(2)宝塚市立病院は、昭和59年5月に開院され、以来今日までおよそ40年にわたって、市の中核的医療を担う基幹病院として大きな役割を果たしてきたところでありますが、残念ながら、経常損益においてほとんど黒字になったことがない、とお聞きしております。公立病院である以上、医療行政の一翼を担い、救急医療をはじめとして、民間病院があまりやらない、いわゆる不採算医療もこなさなければなりません。しかしその部分は市の一般財源から、いわゆる基準内繰り入れで補填されるはずです。にもかかわらずそれでは足りないため、多額の基準外繰り入れを受けている。これが行政から独立した存在であるはずの公営企業として、問題視されるところであると理解しております。ただし、病院事業は国からの交付税の対象となっており、交付税は病院の収入には計上されないものの、市の収入にはなっているということは、考慮しておく必要があると思います。
自治体が病院事業を行う場合、ベッド数などに応じて普通交付税が交付され、特に国が認める不採算医療を行う場合は、特別交付税の対象となると聞きますが、それぞれ、その金額はおよそどのくらいでしょうか。また、市立病院において、特別交付税の対象となる不採算医療には、どのようなものがあるでしょうか。ご説明を求めます。
(3)赤字体質の市立病院に対して、1つの極論として「赤字の市立病院など必要ない」という意見もあると思います。極論ではありますが暴論ではなく、それなりの根拠はあります。そもそも自前の公立病院を持たない自治体などいくらでもあるし、この宝塚でも昭和59年に市立病院が開設されるまでは、公立病院など存在しなかったはずです。しかもわが国においては、昭和36年に国民皆保険が実現されており、それ以来誰でも、健康保険証さえあれば、公立病院だろうが民間病院だろうが自由に受診することができます。その医療の内容や料金は、国によって全国一律に決められており、公立だから安い、民間だから高い、ということもありません。ですから、病気になって医者に見てもらうとき、宝塚のようなマチで民間病院もたくさんあるところでは、公立病院など存在しなくても市民が困るということは特にないはずです。そこで念のために確認しておきたいのですが、市民が、民間病院ではなく公立病院で診療を受けるメリットがあるとすれば、それはどんなことでしょうか。ご説明を求めます。
(4)「市立病院など不要」というような極論が一部に存在するとしても、大多数の市民は、「市立病院は必要である」と感じておられるのではないでしょうか。しかし、サステナビリティーのことなど考えなければ、どんな公共施設でも無いよりあった方がいいに決まっています。「市立病院は市民の医療を守るための最後のトリデ」などという感情的な主張も、事実認識がまちがっていると思います。普通の市民は、必要な情報を正しく認識しているとは限りません。よく「市民の声を聞け」といわれますが、それは当然であるとしても、判断するのは行政と議会でなければならない、と私は思っております。
私は今日、公立病院の必要性は、市民の直接のニーズに基づくというよりもむしろ、行政が、政策医療をはじめとする医療や、保健・衛生などにかかわる事業を行なうための、いわば行政施設として、その必要性が高まっていると考えます。公立病院は特に、救急医療をはじめ、感染症医療、周産期医療など、採算の面から民間病院では提供が困難な医療、あるいは地域において不足している医療を市民に提供しています。また大規模な災害が発生したときや、感染症が流行したときには、災害対応、感染症対応の拠点病院としての機能が期待されています。現在なお流行中のコロナ感染症の対応においても、病床確保と入院患者の受け入れにおいて、公立病院の必要性・重要性が再認識されたと言われます。当然、宝塚市立病院も大きな役割を果していると思いますが、宝塚市立病院がこのコロナ禍で果たしてきた役割、また今後はたすべき役割についてご説明を求めます。
以上により、私は市立病院のような病院がこれからも必要であると考えますが、そうであるとしても、何のために必要であるかを明らかにしておくことが、今後の市立病院改革を進める上で必要であると思います。病院当局は、市立病院が目指す病院像の中で、いささか唐突に「電気・ガス・水道などと同様に、市立病院の存在は不可欠である」と述べていますが、当局がそのように考える理由をご説明願います。
(5)市立病院改革を進める上では、国が示す公立病院経営強化ガイドラインを、その隠された意図も含めて理解しておくことが必要だと思います。国はこのようなガイドラインを何のために出してきたのか。このガイドラインは、何度読んでもわかりにくい文書ですが、私は、公立病院の経営を強化するためというよりは、地域医療構想と地域包括ケアシステムを推進するために出された文書だと理解します。地域医療構想とは、地域ごとに病院のベッドの数をコントロールしようとするものであり、地域包括ケアシステムとは、病院に入院する患者の数をできるだけ少なくして、介護施設あるいは在宅医療・在宅介護に移そうとするものであると理解します。そしてその目的は、いずれも国の医療費を削減することにあると理解するべきだと思います。
我が国の医療の最大の問題は、医者の数は少ないのに病院のベッドの数だけはやたらに多いことであり、同一人口で比較した場合、我が国のベッドの数は、他の先進国と比べて2倍以上はあるといわれています。なぜこんなことになったのか。その理由は、病院の利益はベッドの数によって決まるところが大きく、厚生労働省が、野放図な民間並びに公立病院の申請を認めてきたからだといわれます。その後、地域ごとにベッドの総数は規制されるようになりましたが、ベッドのカテゴリーに規制がなかったために、急性期病床といわれる、病院にとっては利巾の大きいベッドばかりが増えてしまいました。厚生労働省の医療行政は、日本医師会などの強力な圧力団体に屈して、まさに失政につぐ失政の歴史であったといわれます。私は、ガイドラインのネライは、このような過去の失政を挽回するため、行政に従順な公立病院を中心に統廃合を進め、ベッドの数を削減することにあると理解します。このような国の意図を全面的に忖度する必要はないかもしれませんが、十分認識はしておくことが必要ではないでしょうか。病院当局は、ガイドラインによって示された国の意図をどのようなものと受け止め、どのような方針で対応しようとしているのか、当局の基本的なスタンスをご説明願います。
(6)市立病院が目指す病院像では、第一に経営強化策が述べられています。経営強化のために第一にやるべきことは、通常ならば売り上げを増やすこと、病院のコトバで言えば医業収益を増やすことだと思いますが、これは国が医療費を削減しようとしていることと正面から衝突し、限界があるはずです。このことを念頭に置いて、市立病院が目指す病院像の経営強化策を見るならば、あまりにも楽観的であり、目新しいことが何もなく「今迄通りのことをやっていくだけ」と開き直っているかのような印象を受けます。特に入院単価と入院患者数の検討について問題があるように思います。
まず入院単価について。令和3年度の入院単価が何とか65,000円近くを達成できたことを以て、なぜポストコロナにおいても入院単価65,000円を維持できるといえるのでしょうか。DPC(Ⅰ+Ⅱ)の期間率70%を維持するというが、令和3年度が66%でそれ以前はすべて50%台であるのに、なぜ70%台を維持できるといえるのでしょうか。
次に入院患者数について。コロナ前の令和元年度の実績値340人を確実に維持するというが、その前年の平成30年が323人にとどまっているのに、なぜ340人を維持できるといえるのでしょうか。令和元年度は入院患者340人でも、経常損益が赤字で4億4千万円の基準外繰り入れを行なっています。このことからすれば、340人という目標は、達成が確実と言えないばかりか、不十分な目標でもあると言えるのではないでしょうか。
入院単価と入院患者数の過去の最大値を維持することだけを以て経営強化策としているようですが、これは国のあくまでも医療費を削減しようとする意図と根本的に矛盾します。私は、医療は成長産業と考えるべきではなく、縮小均衡策をベースとすべきであると考えますが、この点について、当局の考えをお聞かせ願います。
(7)市立病院が目指す病院像では、経営形態の見直しについて「現在の地方公営企業法全部適用の経営形態を維持してゆく」と簡単に結論づけています。その理由は「市立病院が、ガイドラインで経営形態を見直すべしとされる、医師の確保や経営黒字化が困難な病院に該当しないから」というものです。しかし、これはウソではないにしても真実でもありません。医師の確保については過去に医師の大量退職に見舞われ、事業管理者が「いつやめられるかとヒヤヒヤしている」と述べられるなど、決して安心できる状況にはないはずです。また、経常黒字化については「入院単価65,000円、入院患者数305人を維持することによって黒字化は可能」と結論づけていますが、さきほど質問したように、これは達成確実でないばかりか、不十分な目標設定です。
ガイドラインは、地方独立行政法人化した公立病院のコロナ対応を絶賛するなど、明らかに地方独立行政法人化を推奨しています。病院当局が、地方独立行政法人化を検討しない理由はなぜでしょうか。またガイドラインでは、持続可能な地域医療提供体制を確保するために、公立病院どうしだけでなく、公立と民間の垣根を越えて、機能分化、連携強化、さらには経営統合まで検討するべきとされていますが、市立病院が目指す病院像には、具体的なことは何も記されていません。当局は、この点についてどのように考えているのでしょうか。
(8)市立病院が目指す病院像では、市立病院は開業後38年を経過したこと、多くの自治体病院では開業後40年以内に建て替えを行なっていること、配管更新工事だけを行なったとしても多額の費用がかかる上に今後の医療の高度化に対応できないことから、病院の建て替えが必須である、と結論づけています。ということは、病院を存続させるためにはその建て替えが絶対に必要であることを意味し、病院の存続だけを決めたとしても、建て替えが可能でなければ意味がない、ということになります。残念ながら市立病院が目指す病院像においては、建て替え費用が262億円と示されていますが、肝心の財源については「財源確保の課題をクリアする必要がある」と述べただけで終わっています。市立病院の存続のためには、病院の建て替えが絶対条件であるはずですが、病院当局は病院の建て替えを可能と考えているのでしょうか。そのためには何をどうクリアすべきであると考えているのでしょうか。ご説明を求めます。
(9)最後に、つい先月決明らかになったばかりの大阪府の北部、滝や猿がいることで有名なM市の市立病院の事例をご紹介して、しめくくりたいと思います。M市立病院は、わが宝塚市立病院とほぼ同時期の昭和56年7月に開設された、ベッド数317の病院です。M市立病院も公立病院のご多分に漏れず、赤字体質ですが、経営改革に先だって、病院の建て替えとその場所は先に決定されています。この新しい病院の経営をどうするかということで、昨年2月に新市立病院整備審議会が設置され、早くも今年の8月に、M市長あて答申書が提出されました。その要点は、①同じ医療圏内に属する民間病院の一つと統合すること。②経営形態は統合する相手方民間病院の指定管理とすること。③統合となるので病院事業債の40%まで交付税措置が受けられることです。
特に注目すべきことは、現在の病院職員は、全員公務員の身分を離れて、指定管理者となる病院の職員となることが前提となっていることで、すでに職員に対する説明会も始められています。本市のお隣の川西市立病院のケースでも、民間病院と統合してその民間病院が指定管理者となったことは同じですが、看護師などの相当数が職種変換の上、市役所本体の職員として残ったと聞いております。この点でM市立病院の経営改革はより徹底的であり、私は、民間病院による指定管理には全面賛成ではありませんが、変革を恐れない、非常に積極的な姿勢には学ぶべきものがあると思っています。(終わり)